特撮は爆発だ⁉火薬による爆破演出のあれこれ

雑感ノート

特撮の醍醐味と言ったら何を想像しますか?

派手なワイヤーアクションや驚きのCGグラフィックもそうですが、やはり何といっても火薬を使った爆破演出ですよね。

合成が全盛のハリウッド映画でも最近では「爆発や破壊はCGよりも実写で」という流れになってきています。

それだけ生火(なまび)の迫力に合成の爆発はまだまだ敵わないという事ですね。

今回はそんな特撮の花形である爆破演出の火薬の種類や使い分け、それと火薬撮影を行う際の撮影現場での注意すべきことなどをお伝えしていきます。

自主映画ではなかなかできない火薬演出、貴重な情報なのでぜひ参考にしてみてください。

この記事でわかること
  • 爆破の種類と演出方法
  • 火薬を使う撮影現場の注意すべきこと

※今回の記事は火薬を扱った内容となります。取り扱いには「煙火打揚従事者」になるための専門的な資格が必要となりますので絶対に真似しないでください。これにより起こる事故などの責任は一切負いかねますのでご注意ください。

特撮は爆発だ⁉火薬による爆破演出のあれこれ

演出による爆破の種類

爆発演出には様々な火薬が使用されます。

火薬には爆発の特徴や効果がそれぞれ違っていて、その演出に最適と思われた火薬が操演部・特効部により選定されます。

監督はまずイメージを操演/特効部に伝えどのような爆破にするかを打ち合わせます。

伝えられたイメージを基に操演/特効部がどの火薬を使うかを選定し使用します。火薬にはそれぞれ特徴があり、爆発の仕方も異なります。

また長所と短所それぞれあるので、エキスパートである操演/特効部がその特徴を考えて選定していきます。

これから紹介するのはあくまで火薬の一部ですが、それぞれ演出効果が異なるので参考にしてみてください。

※あくまで一例であり、業界や団体によって呼び名や手法が異なる場合があります。

ナパーム

巨大な炎を見せることが出来る爆破演出の花形

爆破演出の花形と言えばこの「ナパーム」です。

ナパームの燃料はガソリンで、火薬により発火させます。

大量のガソリンをビニール袋に入れ、発火させるため大きな炎を作ることができます。

爆破演出の中でも大変危険な分類になるので、屋内では行う事ができません。

また屋外であってもナパームが可能なロケ地とそうでないロケ地もあるので使用する場面は限られます。

主に特撮オープン撮影などで使用されることがほとんどで、その威力や炎の大きさはとても迫力があります。

代表的なものとして戦隊ヒーローの5人並びの後ろで大きく爆破するカットによく使われます。

セメント爆破

セメント爆破はその名の通り「セメント」を火薬で撃ち出す方法です。

撃ち出されるものがセメントのため、爆破のイメージは灰色の噴煙に近くなります。

火薬でセメントを撃ち出すためナパームよりも音が大きく爆発のスピード早いのが特徴です。

爆発の勢いを演出したい場合はこちらが使われます。

ナパームの炎と違い灰色のセメントの煙が四方に伸びるのが特徴的です。

代表的なものとして、時代劇の大砲が着弾したときによく使われる爆破方法です。

カプセル弾着

カプセル弾着とは筒状の小さいカプセルに火薬を詰めてそれを壁や着ぐるみなどに付けて破裂させる方法です。

よく銃で撃たれた際に使われる方法で、小さい火花が飛び散るのが特徴です。

カプセル弾着は爆竹のように大きな音がするので、事前に俳優さんなどに伝えておかないと音にびっくりして芝居を止めてしまう事もあります。

またこの弾着は複数付けることも可能で、連続で発火させるために「シャミセン」と呼ばれる発火装置が使用されます。

これは操演部さん独自で作る発火装置でカプセル弾着以外の発火装置としても使われます。

またカプセル弾着はその他の仕掛けにも応用できます。

その一つが「ネズミ」です。

ネズミ

ネズミ」とは形がネズミ捕りに似ていることからつけられた名前で操演仕掛けの一つです。

鉄板の板の上に木の板が乗っかっておりその間に先ほどのカプセル火薬が挟み込まれています。

この木の板の上に土や石膏板の欠片などを散りばめて置きカプセル火薬を発火させると、その爆発の勢いで板の上の土などが打ち上るという仕掛けです。

代表的な使い方として、ミニチュア特撮で怪獣やウルトラマンが倒れたりしたときにその勢いで地面の土が跳ね上る時に使用されています。

倒れた勢いを可視化するのに役立っていますね。

「星」とはもともと花火業界の言葉で、花火の玉皮の中に入れる色々な発色をする火薬玉のことを言います。

この星と呼ばれる火薬を特撮業界でも使用しており、怪獣の爆発や建物の破壊描写に使われています。

使い方は火薬を筒に入れて地面に置いたり、袋に詰めて怪獣につけたりもします。

爆発の仕方はまさに花火のようであり、大きな光の粒が四方に飛び散ります。

また星には化学薬品が混ざっており、薬品の違いで様々な色の光を放つことも特徴です。

「赤星」「青星」「白星」「銀星」など状況に応じて操演部さんが選定しています。

例えば炎の怪獣だから赤星を入れようとか、ロボットが壊れるから銀星多めにしようなど、星の使い分けが操演技師さんの爆破演出の見所の一つとも言えます。

造粒

造粒(ぞうりゅう)とは元々、花火の星の基となる火薬の粉です。

黒い粉上の火薬であり、そのものだけを発火させることも可能です。

造粒の特徴はナパームのような炎と黒煙が上がるのが特徴です。

まず炎ですが、ガソリンと違い火薬の粉なので細かく分量を調節することが可能です。そのためナパームのような炎でも屋内で使用できるぐらい小さく抑えることが可能です。

また炎の後に黒々とした黒煙が上がるのも特徴で、わざと煙を出させてその煙を怪獣の体にまとわりつかせたりすることも可能です。

屋内の爆破で炎系を中心にしたいときに使われる火薬です。

速火線

速火線(そっかせん)はこれも打ち上げ花火に使用されていたもので、もともとは導火線の一つです。

紙状の筒の中に火薬が仕込まれていてそれを伸ばすことで火薬が走るように発火していくのが特徴です。

発火スピードはとても速く、人間の速度では追いつくことができません。

地割れや、ひび割れなど何かを破壊する時の予兆の演出として使用されることが多いです。

もともとが導火線なので、ナイヤガラの滝のように他の火薬同士を着火させることも可能です。

火薬撮影で注意しなければならない事

以上のように、火薬を使った演出は多種多様にあり、その迫力もすごいものになります。

しかし、火薬を使うという事はやはりかなり危険を伴う撮影であり、一歩間違えると怪我や死亡事故にもなりかねません。

そのため火薬を使う撮影の際は細心の注意を払って行われています。

特に撮影隊が注意しなければならない事は以下の様な事があります。

  • 火薬の設置や使用は必ず、資格を持つ操演部や特攻部が行う
  • 撮影場所(ロケ地/スタジオ)は火器の使用が可能か確認する
  • 撮影日を消防に連絡する
  • 消火態勢を徹底させる
  • 火薬を扱うスタッフのOKが無ければ本番しない

まず、火薬を設置したり使用するには先にもお伝えしたように「煙火打揚従事者」などの資格が必要です。そのため資格を持っている操演部や特攻部がスタッフにいる事が必須になります。

台本に爆破や弾着などの描写がある場合はプロデューサーが必ず操演部や特攻部のスタッフィングを行います。

また、操演部など有資格者がいたとしても、撮影場所が火器厳禁なところもあります。

そのためロケ地で火薬の使用をする場合は必ずロケ先に火薬の使用について確認をしておきます。これはスタジオであっても同様です。

これをせずに火薬の撮影を行ってしまうと、今後ロケ地が使用できなくなったり、煙や火の粉などでロケ地を破損させた場合、最悪損害賠償になったりする可能性があるため必ず確認を行います。

また、ナパームなど大きな爆発を伴う撮影に関しては近隣の消防署に撮影の日時を連絡しておきます。

なぜなら、撮影の炎を近隣の住民が見て消防の方に通報してしまう可能性があるからです。

通報した時に撮影隊から連絡がいっていれば、その時点で撮影隊に連絡が来て状況確認だけで済みますが、連絡をしていない場合、消防が出動してしまい現場にサイレンを鳴らした消防車が来て撮影がストップしてしまいます。

そうならないためにも事前に消防には連絡を入れておきます。

また撮影の時は必ず消火態勢を万全にしておきます。

火薬撮影で用意しておくもの
  • 炭酸消火器
  • 水バケツ
  • 噴霧器
  • 濡れウエス
  • 濡れ毛布

上記のものが最低限必要なものです。

どの火薬にどのくらいの消火態勢が必要かは経験でわかってくるものですが、もし分からない場合でも操演部など火器を扱うスタッフに聞けば何を用意しておけばいいのかは教えてくれます。

まずは聞いてみる事が大切です。

また当然のことながら、火薬を取り扱うスタッフの準備が整うまでは撮影はできません。そのために火薬を扱うスタッフを焦らせたり、準備を早めるように言う事はありません。

時間はかかっても安全優先で準備万端にしてもらいます。そしてテストを重ねて操演部・特攻部のOKが出たら本番が可能になります。

OKが出ない段階での本番はありえませんので、いくら時間が迫っていてもそこは辛抱強く待ちましょう。

むしろスケジュールの段階で火薬を使う場合はその時間を織り込んでおく必要があります。


以上のように、火薬を使う撮影に関しては様々な制約や安全対策が必要となります。

時間と手間とお金がかかる撮影になる事は間違いありません。

しかし、それと天秤をかけても迫力のある映像が撮れるのは間違いありません。

なので、ただ単純に爆発は合成で済ますという選択肢だけでなく、もし機会があるならば生火での爆破演出をチャレンジしてみるのも面白いのではないでしょうか。

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